お勉強:北欧神話
きっかけは、『マンガ「史上最強の弟子ケンイチ」に出てくるバルキリーとワルキューレって同じじゃないの?』というオレツッコミから。
初稿:2014年
北欧神話とは
ノルディックに伝わる、九つの世界を舞台にした神々の栄枯盛衰のお話。
ユグドラシルと九つの世界
ユグドラシルは、宇宙樹。一般には世界樹として知られる。北欧神話の舞台である九つの世界を包括し、大きく3つの層を構成する。
ユグドラシルはサクソン人(古イングランド民族)にも伝わり祖神イルミンの柱イルミンスールとして信仰対象となった。ほか、旧約聖書の生命の樹セフィロトやマヤ文明のセイバなど、ユグドラシルに相当する世界の根幹軸を表す概念は各地に存在するが、一般に世界樹といった場合はユグドラシルかドラクエの二択だろう。
九つの世界は第一層のアースガルズ、ヴァナヘイム、アルフヘイム、第二層のミズガルズ、ヨトゥンヘイム、スヴァルトアールヴヘイム、第三層のムスペルヘイム、ニヴルヘイム、ヘルヘイムのこと。
第一層
主に神々が住まう。
- アースガルズは、アース神族の王国。言語によってアスカルド、アスガルズなど。地上からは虹の橋ビフレストを渡っていく。
- ヴァルハラは、オーディンの宮殿。
- ヴァナヘイムは、ヴァン神族の王国。
- フォールクヴァングは、フレイヤの宮殿。
- アルフヘイムは、妖精エルフの国。
第二層
中間層になるのかな。
- ミズガルズは、人間界。上下をアースガルズとヘルヘイムに挟まれ、周囲を海に、さらにその外をヨトゥンヘイムに囲まれている。
- ヨトゥンヘイムは、巨人ヨトゥンの国。
- ウートガルズは、巨人の王ウトガルザ・ロキの収める都市。
- ニザヴェッリルは、小人ドワーフの国。
- スヴァルトアールヴヘイムは、黒い妖精スヴァルトアールヴの国。
第三層
辺境の地。最下層。世界樹の根っこ。
- ムスペルヘイムは、灼熱の国。巨人が住む。
- ニヴルヘイムは、氷の国。
- ヘルヘイムは、死者の国。
- ニヴルヘイムとヘルヘイムは、同一視される。
そのほか
世界樹の根元には、3つの魔法の泉がある
- ミーミスブルンは、ヨトゥンヘイムにある泉。英知の源泉。オーディンもあやかった。一般にミーミルの泉として広く知られている。
- ウルザブルンは、アースガルズにある泉。浄化の源泉。世界樹の栄養源。一般にウルズの泉とされる。
- フヴェルゲルミルは、ニヴルヘイムにある泉。九つの世界を流れる川の源流。
- イザヴェルは、はるか昔から存在する大地。アースガルズもここにある。
- ビフレストは、アースガルズとミズガルズを結ぶ虹の橋。
- ヴィーグリーズは、ラグナロクの舞台。
主な登場人物
北欧神話の骨子はオーディンとロキの義兄弟喧嘩とその顛末。ゲスなふたりの身勝手な振る舞いに人間を含む大勢が巻き込まれた。
神々
- オーディンは、アース神族の最高神。本作品の主役。嫁はフリッグ。愛馬はスレイプニル。神槍グングニルの使い手。軍神として魔術や計略にも長け、さらに無数のハンドルネームを駆使する。下半身もお盛んで三人の娘をすべて手に掛け孕ませた鬼畜じじい。
- バルドルは、光の神。オーディンの息子。無敵装甲を有するが唯一の弱点はヤドリギ。ロキの姦計により異母弟ヘズに殺される。結果世界は光を失いラグナロクへと向かうことになった。
- ヘズは、盲目の神。オーディンの息子。バルドルを誤って殺したことで異母弟ヴァーリに成敗される。
- フレイ(♂)は、ヴァン神族の神。平和とか豊穣の象徴。イケメンらしい。神族和解の人質としてアース神族入りした。妖精の支配者。スウェーデン王家の先祖ということになっている。
- フレイヤ(♀)は、ヴァン神族の女神。旦那はオーズ。双子の兄にフレイ。美とか愛とか豊饒とか戦いとか魔法とか死とか、マルチタレントな月の女神。さらにワルキューレのリーダーも務める。その上ビッチ。グルヴェイグという
ディープインパクトxエアグルーヴの良血馬ハンドルネームで活動中、アース神族によって集団レイプされた。 - トールは、アース神族の雷神。戦斧ミョルニルの使い手。三国志でいう張飛ポジション。
- ヘイムダルは、出自不明の光の神。オーディン一派でアースガルズの門番を務める。愛馬はキンカメxイントゥザグルーヴという良血のグルトップだが3戦未勝利に終わった。
- テュールは、軍神。出自は不明。オーディン政権到来までは最高神扱いだったが、嫁をロキに寝取られたりフェンリルに右腕を食いちぎられたりとけっこう大変な目にあっている。
みんなのアイドル“フレイヤ輪姦事件”はヴァン神族を激昂させアース神族との抗争にまで発展したものの、宿敵ヨトゥンとの抗争を前に「敵の敵は味方」と和解、さらに民族統一した。犯られ損のフレイヤだが、元よりビッチなのであまり問題なかったようだ。
人間
もともと神族のいざこざとは無関係だったのが、オーディンの軍拡政策に巻き込まれた。
- シグルズは、人間の英雄。ブリュンヒルデと恋仲になるが引き裂かれ、グズルーンと再婚。ドイツ版ではジークフリートで普段は日本人として宇門大介を名乗っている。無敵装甲を持つがうなじが弱点。
- ブリュンヒルデは、アーリーオーバーマンもといワルキューレの一員。極めて黒く、重力を操る。オーディンの命に従わなかったことで神性を剥奪された。ジグルスの嫁だったがグンターと無理やり再婚させられたり、オーバーデビルとの戦いに引っ張り出されたり、グズルーンの癇癪によりシグルズを逆恨みしたり、グンターをけしかけてシグルズを殺したり、真相に気づいて自害したり、最後まで振り回されっぱなしだった、たぶんこの物語でいちばん気の毒なお方。
巨人族とロキファミリー
神族と対比を成すのが霜の巨人。
- ロキは、ひねくれ者。本作品のラスボスでオーディンと双璧をなすクソ野郎。元々は巨人軍だがオーディンの義兄弟となったことで多くの神々にあれこれ干渉するようになる。他人を騙すことが生き甲斐のようで、調子に乗りすぎて口を滑らせ大炎上、フルボッコにあい辺境のムスペルヘイムに追放・監禁された。
- スルトは、灼熱の国ムスペルヘイムの番人。出自は不明。
- フェンリルとヨルムンガンドとヘルはロキとアングルボザの間に生まれた三兄妹。オーディンによってニヴルヘイム(ヘルヘイム)へ追放された。
- フェンリルは、巨大な狼。ファフナーの最終兵器にしてソフトウェア企業。
- ヨルムンガンドは、巨大な蛇。ミズガルズをぐるりと囲む。
- ヘルは、死を司る女神。死者を蘇らせることができるのは彼女だけ。
- ガルムは、ヘルの番犬。
グループ
- ワルキューレは、戦場の女神(半神)。いっぱいいる。代表的なのはジークフリートの嫁ブリュンヒルデ。戦死した勇者をエインヘリャルとしてヴァルハラに誘い、再び戦に駆り立てる。
- エインヘリャルは、戦死した戦士。シャレじゃなくて。ゾンビ的なものではなく死を恐れぬ勇敢さを称えて戦に駆り出すための方便と思われる。ヴァルハラで復活しラグナロクに備える。
- ベルセルクは、軍神オーディンの神通力をうけた狂戦士。甲冑モードのガッツ。ウールヴヘジンと同一視される。エインヘリャルには含まれない。
- ヨトゥンは、霜の巨人。精霊のひとつでアース神族とヴァン神族の不倶戴天の敵。ただし民間レベルでの交流はけっこうある。
その他
- ニーズヘッグは、フヴェルゲルミルを棲家とする巨蛇。
ラグナロク
神々の黄昏。要はハルマゲドンみたいなもの。第一層と第三層の戦い。剣の名前は20世紀末の後付け設定。
臨戦
- フィンブルの冬は、ラグナロクの前兆。風の冬、剣の冬、狼の冬が続いて第二層の人間界はゴミのように崩壊。
- ギャラルホルンは、ヘイムダルが世界の終焉を告げる際に吹く角笛。バルスと同じ効果。
開戦
Xデー到来。滅びの呪文と同時に全ての封印が無効となり、ロキを筆頭とする第三層の連中がリベンジに押し寄せる!
- 第一層の主戦力はアース神族とこの日のために鍛えてきたエインヘリャル。
- 第三層の主戦力はロキファミリーとヨトゥンら巨人族。
- オーディンはフェンリルに飲み込まれあっさり戦死。大金星を挙げたフェンリルもオーディンの息子ヴィーザルによって仇討ちされる。
- トールはヨルムンガンドと相打ちに。
- ロキとヘイムダルも相打ち。
- テュールとガルムも相打ち。
- フレイはスルトに敗れる。
- そのスルトの放った火によってユグドラシルが焼き尽くされ、三つの層と九つの世界は崩壊。
- ヘルは MIA で命運を知る者はいない。
終戦
・・・結局、アース神族と巨人族の共倒れで神話の時代は終わる。どうにかこうにかラグナロクを生き延びた者は敵も味方もなくかつてアースガルズのあった地イザヴェルに集まり、そののち業火を寄せ付けぬ場所ギムレーより新しい時代が始まる(『封神演義』でいう歴史の道標・女媧との決別)。
そのほか
- 冒頭のワルキューレ(古ノルド語→ドイツ語)とヴァルキリー(英語)は、同じ。
- シグルズ(古ノルド語→英語)とジークフリート(ドイツ語)は、同じ。
- FFシリーズのヨルムンガンドとミドガルズオルム(ともに古ノルド語)は、同じ。
- ガッツなベルセルク(ノルウェー語)とバーサーカー(英語)は、同じ。
- ロキ(邪神)とウトガルザ・ロキ(巨人の王)は別人。
余談
FFシリーズのバハムート(アラビア語)とベヒーモス(ヘブライ語)が同じなのはよく知られている。こちらの出典は旧約聖書のヨブ記で北欧神話とは何の関係も無い。「ダンジョンズ&ドラゴンズ」の影響で日本では竜族として扱われることが多いが、原典はベヒーモスのモンスター形状のほうがまだ近い。
リヴァイアサン(英語読み)も旧約聖書の怪物でオリジナルのヘブライ語読みだとレヴィアタン。19世紀のフランスで出版された「地獄の辞典」では地獄の海軍大提督にランクされている。作品によって取る形態は様々だが位置づけはおおむね海の王者で一致している(あくまでも“王者”であって、真の海の王であるポセイドン/ネプチューンとは異なることに注意)。
雑感
そんなわけで、ドラクエとFFという二大ファンタジックRPGは、神話との距離を大幅に縮めるのに貢献すると同時におかしな解釈もいろいろ生んだ。
北欧神話は、人物や地名など登場する名詞はわりと耳にするものの、具体的な内容についてはあまり取り上げられる機会がないので軽くまとめてみたけど、オーディンは現在その名を借りる様々な作品の設定とは裏腹にミーミルの泉を飲んで身に付けた英知をゲスな方向にばかり使った暗君というのが正直な印象で、権力を手にし欲望の赴くままやりたい放題の為政者と、それを快く思わない、やはりゲスな実力者の姦計によって社会がめちゃくちゃにされる…たぶん似たようなことが実際にあったんだろう。それを神話というオブラートに包んでるのだろう。ただそれは北欧神話に限った話ではない。
多くの神話で興味深いのは現代の倫理観との違いが随所に見られる点で、北欧神話も例に漏れず重婚、不貞、近親相姦、児童ポルノ、といった行為が主神クラスによって平然と行われている。それは決して特別なことではなかった・・・少なくとも権力者であれば咎められるようなことはなかったと察せられる。むしろこれらが反社会的行為とされるようになったのは世界史のごく最近であり、長きに渡り多くの国で暗に陽に行われていたことでもある。神話は単なるお伽噺ではなく、過去の世界を紐解く鍵なのだろう。
あと、神話と競馬もけっこう親和性が高い。