お勉強:天体と神話の神々
太古より太陽や星座は信仰の対象として世界各地で神話に組み込まれた。
初稿:2015年
太陽系の天体とギリシャ神話の神々
オリンポス十二神※と太陽系の天体は、一致してるようでしていない。そもそもが太陽や月を含めても 10 天体しかないので当たり前なのだが、たとえば土星のサターン( Sāturnus, サートゥルヌス)や天王星のウラヌス( Ouranos, ウーラノス)は十二神ではない。かと思えば19世紀以降に発見された海王星のネプチューン( Neptunus, ネプトゥーヌス)やホルストの惑星にすら組み込まれていない冥王星のプルート( Pluto)はそれぞれ十二神のひとりである※。また太陽はアポロ( Apollōn, アポローン)でギリシャ神話の最高神ゼウスは木星のジュピター( Juppiter, ユーピテル)と、実際の天体の重要度と格付けの印象に食い違いも見られる。
これらから導き出されるのは、神話とは別に天文信仰が存在したこと、天文信仰よりも後に神話が成立したことである(星座信仰が後なら格付けも神話のそれに従うはずである)。
太陽系の主な天体とギリシア/ローマ神話の神々との関係は次の通り。
天体 | 神名(英) | ギリシア語 | 備考 |
---|---|---|---|
太陽 | アポロ | アポロン | 予言・芸術・音楽・医療の神 |
水星 | マーキュリー | ヘルメス | 伝令神・旅人の守護神 |
金星 | ヴィーナス | アフロディーテ | 愛と美の神 |
地球 | - | ガイア | 地母神、誓言の神、原初の神々 |
月 | ディアナ | アルテミス | 狩猟・森林・純潔・豊穣の神 |
火星 | マーズ | アレス | 軍神、災厄の神 |
木星 | ジュピター | ゼウス | 主神・雷神・天空神 |
土星 | サターン | クロノス | 農耕神、ティーターン神族 |
天王星 | ウラノス | ウラノス | 天空神、原初の神々 |
海王星 | ネプチューン | ポセイドン | 海王、海・泉・地震・馬・塩の神 |
冥王星 | プルート | ハーデス | 冥界の王、地底・農耕の神 |
天体としての“地球”に該当する神は基本的にいない。アース(英語)とか、ガイア(ギリシア語)とか、テラ(ラテン語)とかはみな本来“大地”を表し、それが転じて地球を意味するようになったのは中世以降の話(地動説が支持されるまでは地球も天体のひとつという認識がそもそもなかったわけ)。また地球を表す場合は定冠詞をつけジアース [the Earth]とするのが一般的(『ぼくらの』に出てきたジアースもこれだね。
厳密にはガイア(ローマ神話ではテルース)は天地を包括した世界そのもので TES でいうところのムンダスに近く、地球そのものを表すわけではない。またヘシオドスによればガイアもウラヌスも、オリンポス十二神以前の原初の神々の一柱。
サターン [Saturn] とサタン [Satan] はまったくの別物で、後者はキリスト教やイスラム教の世界観から生み出された存在。セガ6番目のゲーム機が太陽系6番目の惑星にちなんでセガサターンと命名されたのはけっこう有名な話。また時の神としてよく知られているクロノス [Chronus] と土星のクロノス [Kronos] は別神で、前者はヘシオドス以降に後付けされた原初の神々の一柱。
冥界の王プルートはプルトニウムの語源になったことから、「冥界の王と名付けられるくらい恐ろしいものなんです!」といった感じで負のイメージを増殖させるためのネタにしてる原子力アレルギーの人をたまに見かける。実際には命名の理由は「天王星[ウラン U 原子番号92 ] 、海王星[ネプツニウム Np 原子番号93 ] とくれば次は冥王星[プルトニウム Pu 原子番号94 ]に決まっとる」ってだけでそれ以上の意味も一部の連中が期待するような思惑もまったくない。反原発は構わんけど事実を捻じ曲げるのはアカンで。

そんなわけで、同一作品内でディアナとアルテミスが存在したり、マーキュリーとポセイドンが共存みたいな恥ずかしい設定には気を着けような!
そのうちこのへんも書く。
- 黄道十二宮とか全天八十八星座とか聖闘士っぽいの
- 他の地域の神話と天体
雑感
天体は IT とけっこう親和性が高い。惑星や恒星の名前をホスト名にしたり、メーカーやブランド名にするケースは多い。恒星では最も明るいシリウスや二番目に明るいカノープスの頻度が高い。
アニメ/コミックと星座の相性も高く、黄道十二宮はご存知『聖闘士星矢』で一世を風靡したが、オリオンは知名度が高すぎるせいか敬遠される傾向にあるようだ。
脚注
オリンポス十二神は以下の通り(ギリシャ名)。
- ゼウス
- ヘラ(ゼウスの妻)
- アテナ(ゼウスの娘)
- アポロン≒ヘリオス
- アプロディーテ
- アレス
- アルテミス≒セレーネ
- デメテル
- ヘパイストス
- ヘルメス
- ポセイドン
- ヘスティア / ディオニュソス
ディオニュソスは甥のヘスティアに十二神の座を譲ったともされる。プルート / ハーデスについては十二神の一柱にカウントするしないが逸話によって分かれている
なお音引きとかの細かい差異は気にすんな!どうせカタカナにする時点で原音とは違うんだから。