濡れ場のタマラン泰国映画
わしはいかにもな外人は苦手ゆえ自ずと守備範囲も韓中台の東アジアに限られ東南アジアから先に食指を伸ばすことはないのだが、どういうわけかタイだけは例外でまったく抵抗がないどころか日本人よりもウェルカムなくらいで。
Sitapha Uttaburanont, a.k.a. May (Sweet Vacation) ※脱いでません
受け入れやすい顔立ちは中華系の影響によるものだろうが、マレー系が多くなるエキゾチックな南部の子もわりとありだったりする。
イントロダクション
バンコクやプーケットに代表される著名な観光地、その夜の印象からはピンとこないが、タイの一般社会は性表現に対し非常に閉鎖的でヌードのある一般映画(レートを問わず劇場公開された作品な)はごくわずか。さらにスクリーンに裸体を晒け出したご当地女優さんは片手で数えられる程度にすぎない。数少ないヌード作品に巡り合えても脱いでるのはタイ人の女優ではなかったりボディダブルだったり。
もちろんタイだってヌードグラビアやポルノ(というからには無修正だ)は存在するし、性そのものをタブー視してるわけもない。「ここから先はよい子は見てはいけませんよお(棒」という建前で線引のはっきりしたゾーニングを行っているということなのだろう。ある意味王様の国らしいとも思えるが、一歩その線を超えれば世界でも名だたる風俗街が広がるのは皮肉というかなんというか。
表向きは性風俗や性表現に厳しい。というかメディアも含めた公衆の場で裸やすっぴんを出すことをよしとしない国民性が根付いているっぽい。それでいて性の多様性や性産業には寛容で先進的(ちなみに世界の情勢は管理売春を公認もしくは黙認の国家のほうがずっと多く、日本や韓国のほうが遅れてるといえる※)。いっぽうでは児童買春や人身売買などのダークな噂も絶えない、光と闇の交錯する聖地にして性地、それがタイなのだ。
建国より一度も植民地支配を受けたことがないアジアの優等生で王室というか現国王に対する国民の支持も厚いんだけど、近年は政府内の権力抗争と大規模デモ、クーデターの繰り返しで内外の評価を大きく下げ、今も軍部が三権を掌握したままで表現の自由そのものが認められない状態が続いている。ただまあ、タイ人の気質から本格的な戦闘を繰り広げるような事態にはなりそうもないし、中国との関係を強化するいっぽう高速鉄道計画では土壇場で日本の新幹線に軍配を上げてるように外交における巧みな立ち回りは健在らしい。
そんなわけで、一般映画に限るとネタがすぐ尽きるのでポルノにも目を向けている。
タイの作品鑑賞における障害
邦訳された作品をぼちぼち見かける程度で、それ以外のタイ映画に関する情報を扱う日本語記事は泣きたくなるほど少ない。いつものように自力で探すことになる。
言語の壁は厚い。タイ語の文法そのものはけっこう単純で、基本文系は英語と大差ないし動詞の活用や語形変化もないから“声調を無視すれば”習得はわりと短期間で可能かもしれない。が、何しろタイ文字が読めない。成り立ちはサンスクリットの影響を受けているらしいが、違いがちょっとしたカーブや一部波打ってるだけとかでどれもこれも似たような形状に見えるというか模様にしか見えないところへもってラテン系のウムラウトのように小さい○がそこかしこに出てくるので、子音(コーカイ)44種&母音23種(9+6+8)の計67文字を識別するのがまず大変。さらにタイ語は声調にシビアなので子音と母音の組み合わせ法則もアルファベットのように単純じゃないわ、韓国語や中国語のように日本人の苦手とするところの有気音と無気音の対立で意味の弁別が生じるわ、同じ音の言葉でも文字であらわす際(平音節であれば)声調記号を用いて高子音・中子音・低子音の区別をきちんとつける必要があるわ。
まあアルファベットやハングルなどと同じ表音文字に属するので時間を掛ければ読めるところまでは辿り着けるのだが、字面から意味を類推できないし、せっかく表記ルールを理解してもデザイン文字のような実利用における形態変化が日常化してるおかげで読めるのに読めないという現実にぶち当たる←いまここ
そんなわけで、タイ語作品の捜索や鑑賞のハードルはなかなかに高い。一般作品レベルの話であれば他の国の作品同様英語を仲介にすることである程度アタリをつけやすくなるが、同じ東南アジアでもシンガポールやマレーシア、フィリピンほど英語が社会に根付いてるわけじゃなく、歴史的に他国の干渉を受けてこなかったせいか海外を意識しての展開も弱い。作品の英字表記に統一性があまり見られないのもそうした背景と無関係ではあるまい。IMDbのカバーしないポルノになるとさらに英語の可用性は下がる。
アクション映画史に残る傑作『チョコレート・ファイター』の英語というかアルファベット表記は“Chocolate”“Mangkorn Sau”“Women Quanba”“Fury”の4種類を確認できるし、タイ唯一の官能映画といってよい『ジャンダラ』の2012年版も“Jandara 2”“Jan Dara The Beginning”“Jan Dara Pathommabot”の3つが存在する。ジャンダラは他にも2001年(元祖、これだけ『ジャンダラ 背徳の情事』として本邦輸入されている)、2004年(“The Sin”別名“Jan Dara 2”だが名ばかり)、2013年(“Jandara The Finale”または“Jan Dara Patchimmabot”)の作品が存在するもんだから手に入れてから「このジャンダラはTrailerで見たのと違う!」なんてことになる。
タイの作品における特徴や傾向
スターの起用が容易なコメディやバラエティが多いのはどの国もたいてい同じとして、アクションとホラーがやたら目立つ。『マッハ!』をはじめアクションシーンの激しさはハンパないものが多い。ホラーは心理を突くよりも特殊メイクなど視覚的な恐怖を煽る感じ。最初に触れた通り過激なラブシーンはタブーに近いので、男女模様を描いても表面的というかノンアルコールのビールみたいな。他のタブーは王室に対する不敬行為(『アンナと王様』は上映禁止)。事実上の国教である仏教の批判も基本的にはNG。
共通しているのはどんなジャンルでも一夜漬けで考えたようなストーリーばかりな点。演出もひとことでいってしまえば溜めがない。ぶっちゃけ登場人物の心理描写の工夫、社会への問題定義や常識に対するアンチテーゼ、隠されたテーマといったものの作り込みに手間をかけるより難しいことを考えず単純明快に楽しめるものを作り手も観客も好んでいるように映る。こうした傾向はタブーの存在もさることながら、人生の楽しみ方がそうなのかもしれない。
ちなみに特撮ファンの間ではかつて存在したチャイヨー・プロダクションによる『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』とその続編『ハヌマーンと5人の仮面ライダー』がよく知られており、特に後者のMADっぷりは伝説の作品として語り草になっている。
そういうケースはさておき、日本人の感覚でタイ映画に作品性や完成度を期待しても無駄なので鑑賞するなら事前に予防線を張ることをお勧めする。
タイのポルノにおける特徴
一般作品に輪をかけて一本調子なものしかない。ストーリー性はもちろんないし官能表現にもほど遠く、演技をする気もさせる気もないとしか思えないような単調な絡みが延々と続くので日本のAVを見慣れていると拍子抜けする。まあ世界的に見ればポルノでストーリーを追及する日本のドラマAVが異常なのかもしれんが、本場アメリカのような陽気さも、ヨーロッパの「人はどこまで人を逸脱できるのか」に挑戦するような嗜好の追及もない。
ただ連中のカラダはナチュラルにエロい。映画同様、いい女のセックスで十分オカズにできちゃう単純思考なんだろうか。にしてもカメラワークはもうちっと気を遣おう。せっかくのナイスバディなんだからさ。
最近はゲイ作品をよく見かける。
脚注
- 管理売春
- 性をタブー視するのは宗教や道徳上の理由で、現実としては性欲処理を野放しにすると性病の蔓延に繋がったり性犯罪の温床となるため、国家による統制のもとで安全に行うほうが健全、ということらしい。至極もっともな話である。日本だって昔はいわゆる赤線としてそれをわかっていた。現在本番行為が黙認されてるのは吉原とデリヘルくらいだが、無店舗型のリスクよりも町の美観のほうが大事とか、偽善もいいところだよなあ。