濡れ場のタマラン三級片
何が三級片ですか?
三級片とは1980年代から1990年代くらいに香港で乱発された、エロでグロでナンセンスで下品で低俗なC級映画の総称。カテゴリー 3 、略して Cat 3 と表することもある。要はレーティング区分なので必ずしもヌードが含まれるわけじゃない。日本では良い意味で三流のバカ映画としても認識されている。
三級片は香港で一時代を築いた映画会社ショウ・ブラザーズ(邵氏兄弟)からのスピンアウトで誕生した、ゴールデン・ハーベスト(嘉禾電影)によってもたらされた。ショウ・ブラザースを追撃すべくブルース・リーやジャッキー・チェンらを起用しハリウッドライクな大作に力を入れつつ設立直後に製作した「片腕ドラゴン」(名前から想像できるようにバカ映画の鑑みたいな内容)が思いのほか好評だったことから、低コストながらセックスや暴力・猟奇といった過激な表現を多用した作品も展開、これが見事に功を奏し香港映画のいちジャンルとして定着したのである。
以降20年前後に渡って作り続けられた三級片は香港映画に対するカオスなイメージを植え付けた迷作や怪作、駄作の宝庫として映画好きの間で一目置かれてきたが、香港の中国返還を機に往年の愛すべきバカ映画どもが虫の息となってしまい寂しい限りである。恐らくズリネタとしての三級片の需要はネットと違法コピーを通じてJAVに取って代わられたのだろう。
レーティング的な意味だと三級片はさらに映画の範疇として作られたソフト路線と、本番も含むAV的な絡みのハード路線にわけられる。基本的に上映可能なものはソフト路線だし、ハード路線は今となっては辿りようがないので基本的には取り上げない。
わしが2000年に香港国際競走見に行ったときには(日本馬の出走ゼロの年だからな!)まだハード路線の三級片をそこらで売ってたけど、今はどうなのかさっぱりわからん。本格的に興味を抱くようになったのは、帰国後鑑賞したのが三級片のエッセンスがギッシリのバカエログロ作品「獸性新人類 Naked Poison」だったおかげだろう。配役もソフィ・ナンxサミュエル・リョンとど真ん中だし(三級片に限らず1990年代前半までの作品は映像もサウンドも舞台もかなり古臭さを感じるんだけど、96年くらいからかなり洗練されてきたのもよかったのだろう)。これはぜひ開拓せねば、とかろうじてまだ発行されてたプレイボーイの香港版&台湾版やその公式サイトを見ては性感女神(セクシー系グラドル)の情報をせっせと仕入れてたよ。そこで知りえたのがソフト路線の三級片であり、偉大なる三級女優たちだった。が、さらなる三級片の入手は俺の知識不足や言葉の壁、返還後の逆風的状況などに阻まれなかなか困難を極めた。性感女神の登竜門のひとつだった香港&台湾プレイメイトもプレイボーイの撤退とともに終了。結局俺の求める三級片は俺が存在を知った時期を最後に衰退してしまったことを理解したのはわりと最近のことである。
誰が三級女優さんですか?
三級片の黄金期、90年代に活躍した代表的な女優さんはこんなところ
スー・チー(舒淇)
脱いで正真正銘スターダムにのし上がった女優として真っ先に名前が挙がるお方。演技力はもちろん独特のオーラはハリウッドでも人気を集めた。流行りのリークやリベンジポルノではなしに国際女優のおまんこモロ画像が存在するってのはなかなかエキサイティングな話であるが、わしはこの手の顔立ち苦手なのよね。
ヴェロニカ・イップ(葉玉卿)
1985年にミス・アジア出場を経て女優デビューすると積極的に濡れ場をこなし、時代の性感女王として不動の人気を誇った(性感=セクシー)。後年にはインタビューで「脱ぐのは自由だし、構わない。しかし、脱いだ後に、まだ見せるものが自分にあるかどうかが大切」「その自信がないなら、脱がないほうがいい」
という大御所ならではのコメントを残している。
ロレッタ・リー(李麗珍)
こちらも80年代からコンスタントな出演でブームを盛り上げた、三級女優の代名詞のような人。出演実績は一番じゃないかな。
キャリー・ン(呉家麗)
初映画のあとは特に目立った活躍がなく気が付けば三級女優入り。ここまではありがちな話だが、「赤裸羔羊|Naked Killer」(邦題の「ポイズン・ガールズ あぶないカ・ラ・ダ」はいかがなものか)のヒットでチンミー・ヤウに引っ張られるように復活。ファンもハンパな一般作品よりも三級片のほうを面白がったこともあって呉家麗の人気は再び回復しスターダムに返り咲いた。
香港でもポルノ出演に対する偏見は強く、三軍落ちのような扱いを受け一度沈んだら一軍復帰は絶望的だったらしい。それを覆した呉家麗の功績は大きい。同時に90年代は人気と実力が伴えば三級片に出演したことが決定的な足枷にならない素晴らしい時期だったともいえよう。
マギー・マック(麥家琪)
過去のセミヌードが発覚してミス香港を落選するも、それが話題となって女優デビュー。
イボンヌ・ヨン(翁虹)
ミス・アジアで堂々グランプリの経歴を持ちつつデビュー二作目でいきなり三級出演は大御所ベロニカ以上の離れ業だが、ちょっと地味。脱ぎっぷりも微妙だが長いこと映画界に留まっている。
アイリーン・ワン(温碧霞)
デビューは1982年(当時15歳)でアイドル歌手としても活躍。ほどなくセクシー路線に進出しここでも安定した人気だったが「驚變|All of a Sudden」で大胆な濡れ場を披露。ヌードはこの一作限りで封印、後年「あれは痛恨のミス」とホンネを漏らしている。
エレン・チャン(陳雅倫)
子役を機に歌手デビューするはずがセクシー女優として売り出されズルズルと三級出演。脱いだ本数は少ないが「南洋十大邪術 The Eternal Evil of Asia」はエログロ要素満載のザ・三級片のような傑作(競演のチエン・ジュン[錢軍]も超かわいい)。その後もなんのかんので長いこと映画界に留まってるんだからたいしたものである。なお歌手デビューの件については「貪多個夜晩」という宮沢りえ「赤い花」のカバーで実現された。
個人的にポーリン・チャンの次に好きな三級女優で、中でも「危情|Fatal Love」の演技がよかった。
ビビアン・スー(徐若瑄)
日本ではとびきり有名。初登場はヤングジャンプの巻頭グラビアでヘアヌード写真集を手土産に来日、その後バラエティ路線が当たってタレントに歌手に活躍、お茶の間でもすっかり馴染みの存在となる。同時に「魔鬼天使」など過去の三級出演作がお宝として話題になった。個人的には計画的な出演による成功者という印象。
リリー・チュン(鍾淑慧)
三級女優のレギュラーといえばこの人。三級片に欠かせない、ある種のニッチを埋めるような存在。
ジュリー・リー(李華月)
ポルノに甘くマンコ映ってる作品も珍しくない返還前の香港映画といえども、さすがに「血戀|Trilogy of Lust」でのガチハメには驚いた。
チェン・イムライ(鄭艷麗)
アジア人とはちょっと思えない顔立ちの美人さん。「滅門慘案Ⅱ借種|Daughter of Darkness II」では他のコテコテの三級役者との凸凹感がハンパなかった。
ポーリン・チャン(陳寶蓮)
その悲劇性も含め、わしにとって三級女優を代表する存在である。1991年の「夜生活女王霞姐傳奇|Queen of Underworld」で初脱ぎデビュー、アイドル顔負けのルックスと18歳らしからぬ堂々の振る舞いで脚光を浴びると、90年代前半は多数の三級片に出演。特に「偶遇|A Sudden Love」はため息が出るほどきれいだった。キャリア後半は不倫やドラッグ、自殺未済などのスキャンダルを繰り返した末2002年に自ら人生の幕を下ろした。享年29歳。最後の出演となった「Millennium Mambo」(2001年台仏合作、邦題「ミレニアム・マンボ」)では同じ三級経験者でも主役を張るスー・チーに対し国内版だとポーリン・チャンはクレジットすらなく、映画は現実世界に等しい関係
なんてどの口でコメントするのかとツッコミたくなる。最後の三級出演は「艷降勾魂|Hunting Evil Spirit」か。
…脱いで成功するわけでもなくぱっとしなかった女優も山ほどいる中、ポーリン・チャンの不幸は出演本数こそ多いものの脱がせるためだけの単調な内容ばかりで、知名度のわりに話題を集めたり定着したイメージを覆すような作品に恵まれなかったこと、。ポテンシャルは文句なしといえどもいきなりのヌードデビューだけに飽きられるのも早く、三級の壁を越えようとイメチェンに取り組んだ頃にはもう女優としての旬を使い果たした後だった。
これが韓国あたりなら彼女の半生をそのまま映画にしそうなもんだが、香港映画界にとってトラウマなのか、そうした動きはこれまでのところない。
番外
往年の香港映画といえば、そりゃアクションでしょ。
ムーン・リー(李賽鳳)&シンシア・ラスター(大島由加里)
※脱いでません
80年代後半から 90年代前半に絶大な人気を誇った、女ドラゴン双璧。一般上映のアクション映画中心だけど、中には「妙探雙嬌|Beauty Investigator」といった三級片への出演もある(脱いでません。
ちなみに大島由加里はその多大な功績に対し、2013年の第一回ジャパンアクションアワードで特別功労賞に輝いている。日本でアクション女優というと志穂美悦子や最近だと武田梨奈の知名度が高いけど、海外(特にアジア)では圧倒的に大島由加里なのだ。知らんひとはとりあえずなんでもええから出演作見てみ、キレキレでびっくりするから。
つか、あの時代の良くも悪くもいい加減な香港映画界で名を馳せるのハンパない実力だぞ。
ちなみに同時代に活躍した日本人脱ぎ女優は村上麗奈。
その後の三級片
21世紀に入ると(おそらく中国返還の影響で)三級片の勢いはめっきり衰える。「赤裸特工|Naked Weapon 」のマギー・Qや「Jan Dara」(製作国はタイ)のクリスティ・チョン(鐘麗緹)、最近だと「色,戒|Lust, Caution」のタン・ウェイ(湯唯)など濡れ場が話題になった作品はあるものの、いわゆる三級女優の成り上がりとは異なる(日本人の感覚で喩えるなら一般公開作とピンク映画の違い)。数少ない作品をソフィー・ナン(顏仟汶)、グレース・ラム(林雅詩)、チェリー・チャン(陳昭昭)、ココ・チョウ(周家如)、シェリー・ヤン(楊嘉雯)、クリスタル・ソン(孫亞莉)、童寧(読み不明)といった三級女優が支えていたが、2010年代に入る頃にはほぼ消滅した。現在の香港映画で脱ぎ役を担っているのは主に日本のAV女優で、こと濡れ場に関してはやもすると台湾のほうが尖がった作品が多い。
2010年以降だとヌードと呼んでいい香港映画は「一路向西|Due West Our Sex Journey」「同班同學|Lazy Hazy Crazy|レイジー・ヘイジー・クレイジー」「鸭王|The Gigolo」 くらいか(「鸭王2|The Gigolo 2」は前作の威光を利用した名ばかりの続篇なのだがgdgdな三級片らしさはむしろ満載というか)。台湾は雲翔監督の「安非他命|Amphetamine 」「赤裸人性|Naked Human Nature」、奇才・蔡明亮の「天邊一朶雲 The Wayward Cloud」がおすすめ。
AV女優蒼井そらの中国におけるフィーバーっぷりは日本でも知れ渡ったが、川村千里や小沢まどかをはじめ結構前から中華圏で国内以上に人気を集めたAV女優は多い。そもそも日本のピンク女優やAV女優の三級片起用は80年代後半からすでに散見され、その頃から主役級もあれば脱ぎ要員もあり、中には人気を得たことで拠点を香港に移す女優もいた。現在も「3D肉蒲団之極楽宝鑑」で原紗央莉と周防ゆきこ、「蜜桃成熟時3 3D」で吉沢明歩、「金瓶梅(2008)」では若菜ひかる、上原カエラ、早川瀬里奈、もりかわゆいらがそれぞれ主役級で扱われている。いずれも何作にも渡ってリメイクされている代表的な伝統の三級片だが、それを支えるのが日本のAV女優というのは(プロダクションの戦略も絡んでる話なのはわかるが)なんとも夢のない話と思う。調達のしやすさだけでホイホイAV女優使ってたら本職女優が演技としての濡れ場を極める機会減らすことにならないかね。それ以前に俺からしたら現役AV女優キャスティングされても困るんだよ、わざわざ港台三級片で抜く意味ねえだろうが(朱野順子みたいなケースは、あり)。
…港台の著名女優が出し惜しむ中、相次いで起きたセックススキャンダルはなんとも皮肉。どこまでも突き進めエディソン・チャン!がんばれぼくらのジャンティン・リー!って感じだわ。んまあ後者はさすがに犯罪なんだけど、なんだか梁焯滿(Samuel Leung, サミュエル・リョン、三級片でこの人の出てない作品を探すほうが難しいくらいの常連男優さん)を応援する気持ちに通ずるものがあるわな(実際にジャンティン・リー役をやるなら三級片の帝王こと任達華のほうがふさわしかろうが、個人的に梁焯滿の“イケメンなのに何をやらせても三枚目”な演技が大好きなのだ。